「女子」の絵画案内。

不特定多数の人たちに何かを伝えようという時には、その時代の流れを適切に読むことが不可欠です。しかし時々、作り手の古い価値観が勝ってしまい、今の時代に響かないどころか、逆効果を生んでしまうケースがたまにあります。昨日あたりから炎上している「美術館女子」もその一つです。

「美術館女子」とは、読売新聞と全国約150の公立美術館で作る「美術館連絡協議会」が主催する、

地域に根ざした公立美術館の隠れた魅力やアートに触れる楽しさを、“映える写真”を通じて女性目線で再発見していく連載

だそうです。新型コロナの影響で、全国の公立美術館も閉館を余儀なくされました。そこからの復興にあたって、新しいキャンペーンが必要だという意図は理解できます。ただ、「女性目線」というのなら、もっと適任者がいます。

ハロープロジェクトのグループ、スマイレージ(後にアンジュルム)のリーダーとして約9年のキャリアを持つ一方で、大学院に進学して西洋美術史を専攻する和田彩花さん(通称あやちょ)です。「美術館の魅力やアートにふれる楽しさを、女性目線で発掘する」というのなら、彼女以上の適任者はいないのではないかと思います。(ちなみに彼女の著書に「乙女の絵画案内」などがあります。)

ただ、彼女ではなく、AKB48の小栗有以さんが起用された意図というのもなんとなく分かる気がします。読売新聞のサイトを見ていただいても分かるのですが、美術館をバックにした、小栗さんメインの写真の方が多い。多分和田さんがイメージキャラクターになっていたら、こういう撮り方はしないと思います。和田さんは美術作品にリスペクトを持っているので、おそらく美術品より自分が目立つような写真は撮らせないだろうと思われます。

もしかしたら、最初和田さんに話がいったものの、和田さんが断ったかもしれません。このコンセプトなら、彼女ならいかにも断りそうです。(これで和田さんにノータッチだったとしたら、それはそれで主催者のセンスが問われます。)それに、今回これだけネットでも話題になったので、本人のYoutubeチャンネルで思いのたけを語ってもらってもいいと思います。

しかしもし、読売新聞と美術館連絡協議会が、25歳の中途半端に知識のある元アイドル(自称は現役アイドルですが)より、18歳の無垢な現役アイドルの方がいいと思っているとしたら、それこそ今回の炎上の原因だと思います。これでは、「美術館が好き」「美術館に収蔵されている美術品を見るのが好き」というより、「美術館に行くような高尚な趣味を持っている自分が好き」または「美術館に行っている若い女性を見るのが好き」に見えてしまいます。美術館はあくまでも入れ物であって、肝心なのはそこに収蔵されている美術作品であるべきなのに、そこを美術館の中の人が取り違えているとしたら、残念なことです。

コロナ禍で休館していた美術館が再開するにあたり、美術館やその中の収蔵品の魅力を今一度伝えたいという意図があるのであれば、和田さんも喜んで協力するだろうし、美術館の中の人の監修を受けた和田さんが、美術品の魅力を伝えるのであれば、いい企画だったと思います。問題はその再スタートにあたり、安易に「女子」とかいう名前をつけてしまったことにあると思います。

現代において、「女子」という日本語は上記のようなニュアンスを持つようです。この文脈に当てはめると、まさにAKB48所属の小栗有以さんはうってつけだったのだと思います。AKB48は読売新聞に連載を持っていることもあって、今回の企画に選ばれたというところもあるかもしれませんが、AKB48自体がそもそも素人感を売りにしたグループだし、そこのメンバーがこの役目を引き受けることは自然なことのように思われます。しかし、これを見て、実際に美術館に行きたいと思うようになるのは、おそらくAKB48のファンだけでしょう。

美術館の中の人たちは、広告の対象となる消費者に何をしてほしいかというと、美術館に入って(入場料収入が入る)、収蔵された美術作品を見て、自分もかつて味わった感動を味わってほしいということだと思います。そこまでの敷居が高いから、まずは美術館に来て欲しいということかもしれませんが、作品の魅力があれば、そんな距離はやすやすと飛び越えられるはずです。例えば「モナ・リザ」や「ひまわり」(ゴッホ)は普段は海外にあってなかなか見に行くことは出来ませんが、日本に来た時には多くのお客さんが見に来ます。そんなに有名な作品に巡り合えることはめったにありませんが、今はそれこそ画像をもって、世界中にアートの魅力を発信できる時代です。「映える」対象は美術品そのものであるはずです。

美術館の人もそんなこと百も承知だと思いますが、そこで読売新聞とか、おそらく間に入った広告代理店とかに強く言えなかったのかなぁと推測してしまいます。美術館も未曽有の事態に遭遇して、背に腹は代えられなかったのかもしれません。AKB48のTeam8は、各都道府県に代表がいるスタイルで(小栗さんは東京代表で、それで東京の美術館が紹介された)、これから全国の美術館がこの形で紹介されることになると思いますが、今回のこの指摘を受けて、どのように改善されるか、注目していきたいと思います。